2010年01月22日
こんにゃく白滝偽装事件と「高関税」
こんにゃく粉密輸入=白滝と偽る、業者告発−横浜税関(時事通信)。「しらたきを糸こんにゃくと偽った」かと思ったが、そこまでのマニアックではなかったようで残念だ▼関連して、総理大臣の名産地の名産であることもあって、おそらく政治的に異常な高関税が課されていると一般に思われているこんにゃくであるが、Y!ではこのニュースに関連して食べ物と農業と経営:こんにゃくの関税というブログエントリが紹介されていた。文中の指摘に従えば、国際価格500円のこんにゃく粉に2796円の関税を課しても1703%にはならない。これはせいぜい5-600%である(それにしても高関税ではある)。おかしいと思って調べると、国会での質疑の記録が出てきて謎が解けた。すなわち、以前、国内価格が国際価格の18倍程度であった時期に定めた関税なので、当時の国際価格を基準に1700%程度の関税を設定したらしい。これはこれで理解できる(高関税を納得したわけではない)。しかし、前述のブログエントリも指摘しているように、この関税は定額課税なので、仮に現在の国際価格が500円とすれば(実効)関税率は5-600%と表現すべきなのではないか。それとも、関税率は設定当時の数字で呼ぶ習わしがあるのだろうか▼いずれにしても、原材料と違ってこんにゃく製品には特に高関税は課されていないという指摘は勉強になった。しかし、特に高関税ではない輸入こんにゃく製品を買うという選択肢が残されているので高関税は消費者負担になっていないという指摘は、国内産の原材料を使った製品を購入した場合には消費者負担になるので論外だし(国内で加工するこんにゃく入りそばなどが該当しそうだ)、農業関係者によくある国土保全論は少し切り分けて論じる必要がある。
2010年01月16日
受験生の消しゴムと鉛筆市場調査
某大学某教室における受験生の所持する文具の市場調査を敢行▼まず、消しゴムはトンボの"Mono"が圧倒的人気。19/35(サンプル不足につき参考値)もしくは28/90(31%)のシェアを誇る。次点は無印良品5/90(5.6%)、さらにカドケシ2/90(2.2%)。消しゴムはスリーブを外して裸で使用している学生も多く、その場合にブランドは確認不能であるが、結果的に上記以外のブランドは非常に少数である▼鉛筆に関しては、エンジ色の三菱鉛筆製(以下、エンジ三菱)が22/90(24%)、次いで同社製の緑の鉛筆が7/90(7.8%)、トンボ鉛筆(緑と黄色含む)が5/90(5.6%)。後で確かめると、エンジ三菱にはユニとハイユニがあるようだが、調査時点では知らず、さらにいえばそこまでの識別は不能であったと思われるので、まとめて扱う。また、同社サイトを見ると緑色の鉛筆が見当たらないので、見間違いかもしれない。鉛筆に関しても、ムク風の「合格祈願」系鉛筆も多いが、上記ブランド以外に視認できるブランドは極めて少数▼なお、このように消しゴムと鉛筆の双方に明確なトップブランドが存在するものの、消しゴムが"Mono"で鉛筆がエンジ三菱という組み合わせは8/90(8.9%)しかいないため、特に受験生にトップブランド志向があるわけではないようだ。この「両方」率は、"Mono"率とエンジ三菱率が相互に独立であると仮定した場合の出現率に近い(28/90*22/90=7.6%)。見事だ▼さらに調査を進めるため(暇つぶしのネタ探しともいう)、新たな視点を模索したところ、目についたのが時節柄マスクを着用している受験生である。その数17/90(18.9%)。マスクを着用している学生の文具を確認したところ、興味深い事実を発見した。すなわち、消しゴムにおいて"Mono"の利用率が著しく高い。なんと11/17(64.7%)が該当する。エンジ三菱利用者が4/17(23.5%)、どちらでもない受験生が5/17という数字に比べて明確な差異を見せるが、さらに興味深いのは消しゴムが"Mono"である上に鉛筆がエンジ三菱である受験生が3名存在したことだ。全体として8名しかいない「両方」受験生のうち、なんと3名がマスク着用者であった▼マスク着用者は慎重であるか、もしくは両親・教師等のアドバイスに比較的従順な保守性を有すると考えると、そのような慎重もしくは保守的受験生には"Mono"が人気である、あるいは逆に"Mono"使用者は慎重であるか保守的であるという仮説を構築することができるだろう(この時点で『トンボのMono消しゴムを使う子は頭がいい』という新書の出版企画立案可能)。なお、Aさんから、「最近の高校生は普段は鉛筆など使用せず、もっぱらシャーペンであるはずなので、鉛筆は今回のために用意したか、あるいは塾や学校側が用意して配布した可能性がある」旨指摘があった。もっともな指摘であるが、それを考え合わせると、まず、エンジ三菱使用率がマスク着用/非着用で見事に同率(23.5%/24%)であることに驚かされる。エンジ三菱/"Mono"両方使用者がマスク着用者に多いのも、慎重・保守的でるが故に普段から消しゴムでは"Mono"を選択しつつ、同様に渡されるがままにエンジ三菱を使用しているという受験生像が浮かび上がる。というか、エンジ三菱使用率はマスクに左右されないのだから、「両方」率の上昇は専ら"Mono"使用率の上昇によってもたらされたと見るべきか▼ともかくもなんとか無事試験監督を終える。ICプレーヤ交換1件は、ICカードをきちんと挿さずに動作させてしまった受験生の操作ミスと、もう少し挿せば動いたことに気付かなかった監督者の指導ミス。しかし、挿入不十分でいちど動作させ、点滅信号が点灯してしまった装置を使い続けて万が一の動作不良が発生し、再試験になったりすると面倒なので、有無を言わせずに交換したのは結果的に正しかったと信じる。
2010年01月13日
History Strikes Back!
書籍読了細谷『倫理的な戦争』AA。ブレアに焦点を当て、主にコソボとイラクへの関与を扱った、日本版ウッドワード。歴史家が現代を描けることを示す佳作。それを大前提に恐らく著者が語り残している部分は、"Liberalism on Boots"としてのブッシュ政権との異同(恐らく国際協調主義)、クーパーの欧州的貢献とESS、援助政策ではない部分のアフリカ関与。アフリカを除けば、前の二つはブレアに焦点を絞ったことから当然に生じるないものねだり。アフリカは実は欧州とつながるので、これはちょいだが、同様にコソボとイラクに焦点を絞ったことの帰結なので、やはりないものねだり。要するにAA。お疲れ様でした。本当はベストセラーになって然るべきだが、やや時期を逸したか。ブレアが「EU大統領」になっていればと悔やまれるが、その場合にはそれはそれで環境問題への関与を掘り下げることが求められただろう▼ざっくり3日で読んだ。後輩とまちゃんへの愛に涙▼勢いに乗って、勢いで買ってしまった書籍読了大前『衝撃!EUパワー』C。凄い。勢いだけで書いた本だという意味で凄い。まとめると、勢いだけで書かれた本を、勢いで買ってしまい、勢いで読んだ。主な購買層はビジネス方面なのだろうが、Wikipedia程度の有益性と有害性を持つ。もっとも、活字にしてしまっているだけWikipediaより有害。キャッチーな文言を並べ、とっかかりは完全に間違っているわけではないという点で入り口的な有益性を認めないでもないが、一歩踏み込むと誤謬のオンパレード。一般読者が、この本から手を付けるのはあながち間違いでは無いのかもしれないが、これだけで済ませた場合には恐ろしいことになる。「欧州憲法」があるという論述だし、EUは国家であるらしい(正確には急所は外している気もする)。アオリになっている「超国家」という文言は、確かにEU(研究)用語であるのだが、これは「国家を超えた」という意味であり、"Supra-national"であって"Ultra-national"ではない。しかし、本書ではどうも後者に近い意味で用いられているようだ(タイトルの英訳があれば明らかになるのだが、公式サイトでは慎重に直訳を回避しているようだ)。これ以上のコメントは差し控えるが、小一時間で読了。出版した朝日新聞出版の見識は疑う▼さらに勢いで書籍読了ヴェドリーヌ『国家の復権』AA。「左派のゴーリスト」の面目躍如。細谷本と合わせ、イギリスのブレアが国際コミュニティについて論じ、フランスのヴェドリーヌが国家中心主義を論じる逆説が楽しい。勿論、イギリスには立派な国際共同体についての思想的伝統もあり、フランスは国家主義の元祖。だが、ステレオタイプ的にはアングロサクソンは国家中心主義でフランスは普遍主義でもある。特に、(ブレアの倫理外交などを)リアル・ポリティークならぬイレアル・ポリティーク(非現実政治)と言い放ったのには笑った。3時間で読み終えたが、こちらには付箋がたっぷり▼しかし、原題が"Continuer l'Histoile"(『歴史は続く』)とフクヤマ『歴史の終わり』を意識した、洒落のきいたいかにもフランス的なのに対し、日本語訳のタイトルはいいとして、英語版が"History Strikes Back"とスターウォーズ的な、いかにもアメリカンな感じになっているのには笑った。まあ、『歴史の逆襲』だからいいんだろうけど▼昨日に引き続き明日報告予定の学生さんに助言。